セミヨン 世界的に主要な白ワイン用ブドウその3

セミヨンとは

 品種名ワインにはほとんどその名が登場しない、つまり単体で使用されたり主体的にワインになるのが苦手なタイプの品種です。
ただし、ある程度以上ワインについての知識がある人であれば、必ず聞いたことがある品種でもあるはず。
セミヨンは、ソーヴィニヨン・ブランやミュスカデとブレンドされることでその真価を発揮する、特にボルドーの白ワインにとってなくてはならない名脇役なのです。
ソーヴィニヨン・ブランは峻烈で若々しい、早くから楽しめる品種ですが、逆に熟成力に乏しく、あまりに長く置いておくとむしろ枯れてきてしまう、典型的な早飲み用です。
でも、ボルドーの良質で高級な白ワインなら、やはり10年は寝かせて楽しみたい、と思うのが一般的なのではないでしょうか。
それが熟成の効かない早飲み用では困る、ということで、「しっかりとした酸味が長期間楽しめる(けど熟成はしない)」ソーヴィニヨン・ブランに「(若いうちは特徴に乏しく酸味もぱっとしない代わりに)熟成が進むごとに印象的で複雑なニュアンスを持つようになる」セミヨンをブレンドして、お互いの短所をカバーし長所を光らせるようにするのです。
実際、セミヨンのフランスにおける作付け面積は、白ブドウのなかでは第5位で、しっかりと重要な地位を築いているのがわかります。

 単体で使用されるワインでは、南オーストラリアのハンターバレーという丘陵地帯で造られているものがあげられます。
もともと早熟なセミヨンを、一般的な適期よりさらに早く収穫し、アルコールの低めな酸味の際立つワインに仕上げます。
通常セミヨン単体のワインだと、品種の傾向としておいしく飲むには5年以上は熟成させねばなりませんが、このワインはしっかりとした酸味があるため1年程度の若いうちにも楽しむことができます。
もちろん、熟成させて酸味が落ち着いてくるころには印象的な香りも顔を出し、また違った魅力を感じさせてくれるため、長期間楽しめるワインといえます。

 そしてもうひとつ、セミヨンの忘れてはいけないもうひとつの重要な役割は、ボルドー地方、ソーテルヌで、貴腐ワインの原料である貴腐ブドウになることです。
セミヨンは皮が薄く、またボトリティス・シネレア菌がつきやすいため、貴腐ブドウ用に適した品種といえます。
樹上に摘み残したセミヨンの完熟果実にボトリティス・シネレア菌がつき、理想的な天候と気温、湿度に恵まれると、菌は果汁を少し消費しブドウの果皮のロウ分に穴をあけたところで活動を停止します。
そこから水分が蒸発したブドウは、しわしわになった果皮の中に奇跡のようなバランスで凝縮された果汁を持つようになるのです。
もともと長期熟成によって開花する複雑な香味の成分を持つセミヨンは、貴腐ワインにぴったりの資質を持った品種といえるでしょう。