味や香りからその日の天気まで ワインノートに記録しておきたい項目
飲んだワインの情報を記録していくためのワイン(テイスティング)ノート。
市販されているものだけでも様々な形式のものがあり、最初はどれを選んだらいいのか迷ってしまいそうです。
ましてや、普通のノートを使って書こうとしても、どんな項目について書いたらいいかわからない方も多いのではないでしょうか。
ここでは一般的な記入項目に加えて、ぜひチャレンジしてみて欲しいポイントについてもご説明いたします。
基本の記入項目
ワインノートのテンプレートなどを見ると、記入できる内容も様々ありますが、最低限でも次の項目については記録しておいたほうがいいでしょう。
- 生産国、地域
- ワインの種類
どの国のどの地域で造られたワインか、どんな種類の何色のワインかは、カテゴリーわけできる項目です。
ワインを飲む頻度や本数に合わせて、最初に国別(「フランス・イタリア・それ以外」「ヨーロッパ・新世界」など)や種類別(「スティルワイン・スパークリングワイン・その他」「赤・白・ロゼ」など)でノートを分けておくと、後から参照しやすいかもしれません。
もちろん、日付順に書いていきたいのであれば、全てまとめて順番に記入していっても問題ありませんが、その場合は忘れずにこの項目を書く欄を作りましょう。
あまりに細かく分けすぎると、記入自体が面倒になってしまう恐れもあるのでほどほどに。
- ブドウ品種
使用されているブドウ品種は、そのワインの特徴を推測するための重要な情報です。
生産地名とブドウの品種がわかれば、おおよそどんな系統のワインであるかが想像できるほど。
いくつかの品種がブレンドされている場合など、ラベルには記載がない場合もありますが、インターネットなどでできるだけ調べて記入しておきましょう。
この項目があるのとないのとでは、テイスティングの感想の有用性がまったく違ってきます。
- 生産者
- 銘柄
ワインの醸造所(ワイナリー、シャトーなど)や銘柄は当然書き留めておきましょう。
どんなワインでも、ラベルを見ればすぐに見つけることができるはず。
そのワインを気に入ってあとで調べる場合、この情報を失念してしまうとかなり厄介です。
ただ、生産者や銘柄だけわかっていれば良いかというと、実はそうではありません。
おいしかったワインと同じか、せめて近いものを探すためには次の項目も重要です。
- ヴィンテージ
- グレード
ワインは果物そのものと言っていいほど製造年ごとの品質に差が出るお酒です。
ある年のワインはとてもおいしく感じたのに、次の年のものを飲んでみたらがっかりするほどおいしくなかった、なんてことも珍しくありません。
シャンパンのようにヴィンテージが表示されない種類のワインもありますが、そうでなければ何年のワインなのかは必ずチェックしておくべきです。
また、銘柄によっては同じ名前で複数のグレードのワインを出しているところもあります。
上位と下位では製法も原料さえも違っていることがあるので、ワインを特定するためにはグレードもわからなければなりません。
ワイン法で定められた規定をクリアしているなら呼称統制の表記があるはずなので、忘れず書き留めましょう。
- 製法
- アルコール度数
- 酸化防止剤の有無
ここまでチェックしてあれば、あとから同じワインを特定するのは難しくありませんが、テイスティングの感想を補強する情報として製法やアルコール度数、酸化防止剤の有無についても書いておいたほうがいいでしょう。
「自然農法」「収穫量制限」「灌水」「ビオディナミ」「無濾過」などの特別な製法に関する情報は、複数集まることでそうでないものとの比較に役立ちます。
それぞれの製法にはメリットもデメリットもあり、書籍やインターネットで調べてみても賛否両論で、良いかどうかの判断に困る場合が少なくありません。
その点、自分で飲んでみての好き嫌いであれば、少なくとも自分にとっては間違いのない規準となります。
アルコール度数は言うまでもなくワインの印象を大きく左右する要素ですが、他の要素に比べると大きな違いがない分、意識されることがあまりありません。
しかし、あらためて記録していくと、スティルワインの中でも意外と違いがあり、スパークリングワイン、フォーティファイドワインなど、特殊なワインのアルコール度が普通のワインとは異なっていることにも気付くでしょう。
味わいの差はもちろん、自分のアルコールに対する強さのチェックにもなります。
不確定要素とテイスティングコメント
ここまで見てきた項目は、購入したのが自分でも他人でも変わらない、いわばワインの側に属する情報です。
ラベルを剥がして保存するのであればすべて書き写さなくても問題ありませんし、どのワインであるかが特定できれば本などで調べても事足ります。
しかし、そのワインを誰かが開栓しグラスに注いでからは、その時、その人だけの情報です。
そういう意味では、これ以降の項目こそがワインノートをつけるメインの目的といえるでしょう。
- 飲んだ日付、時刻、シチュエーション
- 気温、天気
そのワインをいつ開けたのかはもちろん、何時頃に、どんな状況で飲んだのかもあわせて記録しておきましょう。
同じワインでも、お昼の明るいオープンテラスで友人とランチをいただきながら飲むのと、深夜の自室でひとりじっくり吟味するのとでは、感じ方が大きく異なってきます。
気温や天気はもちろん、グラスの形や手触り、照明の強弱、BGMの有無とジャンルや音量まで、周囲に存在する五感を刺激する全てが、ワインの印象に微細な、しかし決定的な影響を与えうるのです。
もちろん、その全てを仔細に記していくことなど現実的ではありませんが、記録できる部分、記憶に残った部分はできるだけ書いておいたほうがいいでしょう。
逆に、それらの環境情報がきっかけとなって、その時のワインの印象を鮮明に思い出すことも十分ありえます。
- 購入日
- 価格
レストランであれば飲んだ日が購入日になりますが、自宅であれば購入後しばらく保管しておいたワインでる可能性も十分あります。
保管の環境が適切だったかどうかにもよりますが、寝かせておいた期間も当然味わいに影響を与えますので、記録しておいたほうがいいでしょう。
また、長期間手元に置いて大切に育てたワインであれば、思い入れによってより良質に感じることもあるかもしれませんね。
価格はあまり重要ではないかもしれませんが、大まかな格をはかるのに便利です。
当然、後日同じワインを探す際にも参考にすることができます。
- テイスティングコメント
記録しておくべき情報の中で、もっとも重要なのがこの項目です。
他の項目は他人でも書くことができますが、ここだけは自分自身でなければ同じ物は書けません。
自分だけのテイスティングコメントを積み重ねることによって、ワインノートはどんどん価値のあるものになっていくと言えるのです。
味わいや香りはもちろん、外観(アパランス/Apparence)や口当たりなど、五感をフルに動員してワインと向き合いましょう。
ソムリエを目指しているのなら、他の人とも共有しやすいように一般的な表現やフォーマットを用いて表す練習も必要ですが、そうでないなら感じたことを感じたままに書いていくだけで構いません。
しかしはじめのうちは、自分自身で感じている感覚をどう表現していいかわからない、複雑すぎて「ワインの味・香り」としか言えない、というケースも少なくないかもしれません。
その場合は、ソムリエや他の方のテイスティングコメントを見て、表現の仕方を真似してみてもいいでしょう。
例えば、白ワインを飲んだ際に「すっぱい」としか感じられなかった場合でも、他のワインに対するコメントで「レモンのような」「グレープフルーツのような」「ソーダのような」「南国フルーツのような」といった表現を見ることで、自分が感じた酸味が当てはまる言い表し方を発見できるかもしれません。
また、複雑に変化する味わいの強弱についても、「アタック」「余韻」「コク」「キレ」などの言い回しを知ればより説明しやすくなります。
気を付けなければならないのは、自分が飲んでいるのと同じワインに対するコメントを見ることで、自分の感想が他者のそれに誘引されてしまうことです。
特に著名な生産者や銘柄であれば他の人の感想が気になってしまうかもしれませんが、自分で飲んでみるまで同じワインのテイスティングコメントは極力見ないようにし、表現方法の勉強は無関係なワインのコメントでしたほうが無難でしょう。
最初のうちは感じ取れる情報が少なく、コメントも短くしか書けないのが普通ですが、本数を重ねるうちに今まで飲んだワインとの差を表現できるようになっていきます。
そして表現が細分化することで、逆に細かな差異にも気付くことができるようになるはずです。
次第に長く細かく、そして的確になっていくテイスティングコメントが、自分の成長の記録となっていくのです。
- 産地、生産者、ブドウ品種、醸造方法などに関する知識
ここまでで必要な記録は全てですが、さらに時間をかけてワインと向き合いたい方や、ソムリエ資格(もしくはワインエキスパート資格、ワインコーディネーター資格)の取得を目指している方は、さらに踏み込んで周辺知識を調べてみるのはいかがでしょうか。
例えば、フランス・ボルドー地方のワインであった場合、単に生産地を書いて終わりではなく、ボルドーの歴史的、地理的な情報を調べて書いていきます。
すると、調べる前は「ボルドーのワイン」という点でしか見えなかったものが、ボルドーのワインはなぜ高級なものが多いのか、ボルドー地方でブドウをブレンドするのが主流なのはなぜか、メジャーな組み合わせと比率はどうなっていて今回飲んだワインの比率はメジャーなのかマイナーなのか、などいろいろな観点を持てるようになります。
一度に調べられる情報は少なくとも、これを数十本続けていけばかなりの量になり、ただワインを飲んでいるよりもずっと多くの、しかも実感に基づいた知識を得られます。
資格取得のための勉強も、参考書を読んでいるだけでは身に付きづらく、断片化・形式化しがちなものですが、実際に飲んだワインに紐付けながら覚えることによって、より強固で使いやすいものになるでしょう。