ワイン対紅茶 他の飲み物との比較その5
紅茶とは
紅茶は、ツバキ科ツバキ属の常緑樹であるチャノキかその変種であるアッサムチャの葉を摘み取り、完全発酵させ乾燥させたもの、もしくはそれをお湯や水で抽出した飲料です。
同じチャノキの葉を加工したものでも、加工方法や発酵具合が違えば別の種類のお茶になります。
発祥はインドやベトナム、中国あたりであると考えられていますが、アジアを中心に広く分布しているため、詳しくはわかっていません。
ヨーロッパへお茶が伝わったのは意外にも遅く17世紀のこと、しかも日本を経由してのことだったので、はじめは緑茶が主流でした。
薬のようにして飲まれる、高級なものだったようです。
しかし、お茶はその後1世紀ほどの間に急激にヨーロッパ中に広まり、特にイギリスでは日常生活にまで深く浸透していき、同時に緑茶よりも紅茶がメジャーになっていきます。
時にはアヘン戦争やアメリカの独自貿易のきっかけになったりと歴史的な事件を起こしつつも、途絶えることなく文化として受け継がれた紅茶は、現代では日常からフォーマルな席まで、様々なシチュエーションで飲まれるメジャーな飲み物となっています。
紅茶との歴史の比較
紅茶がヨーロッパ、特にイギリスで広く飲まれるようになったのは、前述のお茶のヨーロッパ伝来の後、イギリスが独占的に中国と茶の貿易を行うようになってからです。
最初にヨーロッパへお茶を運んだのはオランダでしたが、喫茶の習慣が貴族を中心に広まっていくと、その価値に目をつけたイギリスが宣戦布告。
オランダからお茶の貿易権を奪い取り、イギリス東インド会社が基地を置く福建省・厦門(あもい)を通して独占的に輸入するようになります。
この厦門で主に流通していたのが武夷茶と呼ばれる半発酵茶だったため、これ以降ヨーロッパでは発酵させない緑茶タイプから半発酵させた武夷茶(烏龍茶)タイプ、そして完全発酵の紅茶へと飲まれるタイプが移り変わっていきます。
ちなみに、あとから伝わった発酵茶の方が緑茶より好まれた理由のひとつとして、その美しい発色があげられます。
実際、紅茶がもっとも好まれたのは、ヨーロッパの人々がずっと慣れ親しんできた赤ワインの色に近かったからであるともいわれており、半発酵の武夷茶よりも良い水色を出せるお茶を作ろうという工夫から、完全発酵の紅茶が生まれたという説もあるのです。
はじめはワインと同じように貴族を中心とした支配階級が楽しむ高級品だった紅茶ですが、輸入量が増えてくるにしたがって一般市民向けの販売やティールームも増え、一気にあらゆる階級へと広まっていきました。
在庫が過剰になったときには、植民地であったアメリカに押し売りをかけるようなことさえあったのです。
急激な流行や流通量の増加によるこうした動きは、大量生産のできないずっと昔から主に支配階級やキリスト教修道院のコントロール下にあり、聖餐などの宗教的な安定した需要によって支えられてきたワインにはなかったことといえるでしょう。
紅茶の生産量との比較
紅茶は抽出された「紅茶飲料」としてより茶葉の状態で取引されるほうが圧倒的に多いため、単純な生産量の比較はできません。
しかも、農産物としての統計は基本的に「茶」として出されるので、そのなかの紅茶の割合は推定するしかありません。
全世界の茶の生産量は、無発酵、半発酵、発酵全体をあわせて約535万t。
そして、このうち約6割が紅茶であるとされているので、約321万tが紅茶として飲まれていると推計されます。
この状態ではワインと比較するのが難しいので抽出後の状態で考えてみましょう。
茶葉2~10g、平均6gで一杯(100ml)のお茶を淹れられると仮定するとき、紅茶の茶葉を全て抽出すると約5350万キロリットルになります。
(実際には紅茶飲料の原料として使用されるものがあったり、少量で抽出する廉価なティーバックが多かったりするため、ここまで単純化はできませんが)
ワインの世界の総生産量が2757万キロリットルですので、紅茶の方が約2倍の生産量であるといえます。
これは、チャノキの分布がブドウのそれよりも広いことや、紅茶がアルコールを含まない飲み物であるため、未成年者やアルコールが飲めない人でも楽しめることなどが関係していると考えられます。
紅茶の生産地との比較
チャノキはもともと中国を中心に広く分布していましたが、19世紀に変種であるアッサムチャが発見されてからは、チャノキとアッサムチャの交配種が紅茶用の主流になっています。
茶の生産ランキングは、一位がダントツで中国(192.5万t)、二位がインド(120.9万t)、大きくはなれて三位ケニア(43.2万t)、四位スリランカ(34.2万t)、五位ベトナム(21.4万t)となっています。
(2013年統計)
国や地域の位置としてはブドウよりはコーヒーなどに近いところが多いかもしれませんが、アフリカ東部のケニアや南アメリカのアルゼンチン、オセアニアの一部など、ワインの産地にかなり近い土地も含まれています。
消費量の多いヨーロッパやその植民地として開拓されたはずの北アメリカ大陸では栽培されていないのも興味深いポイントです。
中国以外の茶の栽培は19世紀に本格化したものがほとんどですが、現在では中国に次いで世界の需要を支える大産地となっています。
ちなみに、日本は茶の生産量では世界10位(8.5万t)ですが、そのほとんどが緑茶になるため、紅茶の生産はごくわずかです。
紅茶の賞味期限との比較
抽出後の紅茶には、防腐効果のあるカテキンが多く含まれているため、アルコールをまったく含んでいないにもかかわらず、すぐにかびたり腐敗が始まるということはありません。
例えば前日に淹れたお茶を次の日に飲んでも、よほど不潔な状況でもない限り問題ないはずです。
ただし、そのまま放置すると酸化によって苦味や不快な酸味が増し、味は落ちてしまいます。
香りも抜けていってしまいますので、できればすぐに飲んだほうがおいしくのめるでしょう。
また、抽出したあとの茶葉は湿度や栄養面からみても非常に腐敗しやすい状態で、防腐効果のあるカテキンも抽出液のほうに抜けていってしまっているので、あまり長持ちはしません。
紅茶の場合は二回、三回と抽出を繰り返すことはありませんが、抽出後にティーバッグを残したまま放置すると、状況によっては抽出液のほうまで悪くなってしまうかもしれませんので、注意が必要です。
ワインの場合はアルコールが含まれているので、グラスに注いで一晩置いたくらいではまず腐敗することはありませんが、貴腐ワインや一部のフォーティファイドワインを除くとやはり味や香りはダメになってしまいます。
ワインも紅茶も早めに飲んだほうがおいしく飲めますが、保管する場合は密栓した上で冷蔵庫にいれたほうが良いでしょう。
抽出前の茶葉の状態の紅茶は、抽出後に比べると長期間の保管が可能です。
紅茶はそもそもしっかりと発酵させたお茶なので、未発酵茶や半発酵茶に比べると劣化しにくいタイプのお茶であるといえます。
とはいえ、風味が飛んでしまっては楽しめないので、細かく刻まれたティーバッグで数ヶ月~1年、しっかり密閉して湿度や匂いが入らない状態をたもっても2~3年以内に飲んだほうが良いようです。
逆に味をあまり重視していないなら、表記してある賞味期限を大幅にオーバーしていたとしてもカビなどが発生していない限り飲むことは可能です。
味も香りも抜けてしまった紅茶をあえて飲む意味があるとすればですが・・・。
その点、密栓状態であれば安価なものでも数年、十分なポテンシャルのあるものであれば数十年は余裕で保管・熟成できるワインは、アルコールの防腐効果を抜きにしたとしてもやはり特別な液体であるといえるでしょう。
ちなみに、プアール茶や烏龍茶などは茶葉の状態で適切な状態に置くことで熟成し、より深い味わいを持つようになるものもあり、長期間発酵させた茶葉は高級品として扱われます。
紅茶の成分との比較
あれだけの濃い水色や豊かな香りを持っているにもかかわらず、抽出した紅茶の99%は水分です。
ワインと違ってアルコールが含まれておらず、コーヒーのように粉砕して抽出するわけでもないため、水溶性の物質以外がすべて葉のほうに残るからです。
溶出している成分のうち主なものは、ビタミンKや葉酸などのビタミン類、マンガンや銅などのミネラル類です。
また紅茶も植物ですので、当然ポリフェノールも含まれます。
紅茶に多いものとしてはカテキンがあげられ、これが発酵時に重合することでテアフラビンやテアルビジンになり、紅茶のあの色を作り出すのです。
また、カテキンは酸化することでタンニンにも変化します。
赤ワインの場合も美しい水色を作り出しているのはポリフェノールですが、こちらは主にアントシアニンによるものです。
カテキンは色味のほかにも、渋味の元となったり酸化や腐敗を防止するなど、様々な役割を持っています。
栄養素はあるものの、紅茶自体のカロリーは100mlあたり約4kcal。
カフェインも含まれていますが同量のコーヒーに比べると約半分で、利尿作用や便通を促す作用もあり、ダイエット中に楽しめる飲み物としてはワインよりも紅茶に適性があるといえそうです。
紅茶との比較 まとめ
ある意味、ヨーロッパを象徴する飲み物とすら言えるであろうワインと紅茶ですが、その歴史の長さや広まり方には大きな差があります。
急激に生産と消費が拡大した紅茶は、ワインとはまた違った形での文化を形成しました。
貴族的な作法と労働者の食事、高級な嗜好品としての面と日常的に飲むお茶としての面など、相反する側面を併せ持つ紅茶のあり方は、中世以降にヨーロッパが経験した大きな変革をそのまま記憶しているということもできるのではないでしょうか。