ワインの味の表現の仕方 ワインの表現その1
ワインの味は、香りと密接に結びついています。
そのため、ソムリエなどプロの方以外のテイスティングにおいては、味と香りを混同してしまったり、わざと明確に区別せずに評価しているものも少なくありません。
ここでは、ワインの味の種類と感じ方、そして表現について見てみましょう。
ワインの「味」とは
ヒトの場合、「味」は口の中、特に舌に存在する「味蕾(みらい)」と呼ばれる受容体によって感知される刺激である、と定義されています。
基本的には、甘い、しょっぱい、苦い、酸っぱい、旨いのいわゆる「五味」で構成されています。
さらに、温かい、冷たい、渋い、辛いなど、口内の触覚によって認識する刺激も、味覚に分類されることが多いようです。
ただ、人が物を味わう際には思っている以上に嗅覚にも影響を受けているため、例えば「ワインの味」として感じている感覚も、かなりの部分が「ワインの匂い」だったりします。
そのため、鼻が詰まったりしていると、味がほとんど感じられない、なんてことも。
良いワインは嗅覚が万全なときに飲むとして、純粋に味覚として感じている部分を認識して表現できるようにしておきましょう。
味蕾でキャッチする「五味」について
現代では、味は「甘味」「塩味」「苦味」「酸味」「旨味」の5つの感覚を「五味」と呼び、味蕾で感じ取ることのできる味わいの構成要素としています。
甘味(ドゥスール/Douceur)
ワインに含まれる甘味には、アルコール発酵時に分解されずに残った果汁由来のものと、スパークリングワインの瓶詰め時に添加されるような人工的なものに分けられます。
前者は、十分に糖度を高めたブドウ、もしくは天候などによって糖度が高まってしまったブドウの果汁を使用することで、発酵が終わった後も果汁に含まれていた糖分が残ります。
また、一般的なフォーティファイドワインの製法では、発酵途中で蒸留アルコールを加えることで酵母の活動を抑え、糖分が残るようにしています。
一方後者では、発酵でほとんど消費されてしまった糖分を補うため、醸造終了直前に糖類を添加する手法が一般的です。
(発酵前や発酵中に加える場合は、発酵不全を防ぐのが目的なので甘味としては残りません)
スパークリングワインは炭酸ガスの影響で酸味を強く感じやすいため、バランスをとるために甘味を補う必要があったようです。
甘味の表現としては、
- とろりとした
- さっぱりとした
- フレッシュな果物の
- キャンディーの
- かすかな
- 強い
などがあげられます。
今から1500年ほど前までは、ワインの甘さは新鮮で良質なものであることの証明とされていましたが、製法が進歩して嗜好が複雑化してからはその限りではなくなりました。
近年では(国や地域にもよりますが)甘口よりも辛口のほうが人気があるようです。
塩味(セリ/Salé)
ワインで塩味を感じるものは多くはありませんが、海の近くやかつて海だった場所が隆起してできた土地などで造られるものの一部には、塩味のニュアンスが含まれるものが確かにあります。
ブドウの樹の地中深くまで伸びた根が、周辺の地層に含まれるミネラル類を吸い上げて利用するためです。
とはいえ、塩害に特別強いわけでもないブドウが育つ土地ですから、含まれる塩分もごく微量で、他の味が強いワインだとその陰に隠れてしまいます。
そのため、塩味を感じるのは主に辛口でシャープな味わいの白ワインだとされています。
また、近年では海中や海岸線に非常に近い小屋などで熟成させたワインもあり、「海を感じる」「潮風をまとった」などのコピーで販売されている事もありますが、塩味という観点でいえば効果があるかは微妙なところだと言わざるを得ないでしょう。
塩味の表現は多くなく、ほとんどは「塩味がする、ある」という形になります。
また、旨味とあわせて「ミネラル感」と表現される事もあります。
苦味(アメール/Amer)
苦味もワインの魅力的な味わいを構成するひとつです。
渋みと混同されがちですが、渋みはタンニンなどに由来する「触覚」に近い感覚で、苦味とは別のものです。
一部の白ブドウ品種にはもとから苦味の強いものもあるようですが、一般的には良く熟した、暑い地方で育ったブドウの果汁から感じられるとされています。
また、アルコールや熟成に使用した内側を焦がした樽から移るものもあります。
どのワインにもわずかな苦味は含まれていると言われていますが、あまり強い苦味があるワインは歓迎されず、後味に隠し味のように少し含まれるくらいが好ましいとされるため、良く味わってみないとなかなか認識する機会はないかもしれません。
もし最初から最後まではっきりとした苦味を感じるようなら、ワインの品質が正常に保たれているかどうかをチェックしたほうがいいかも。
表現としては、
- かすかな
- 心地よい
- やや強めの
- 青い葉のような
- 焦がしたような
- 果物の種のような
などがあげられます。
何に由来する苦味なのかによって、感じ方も微妙に変わってくるようです。
普段から苦味を含むお酒や食べ物を摂っている人なら、余韻に少しだけ舌をぴりっとさせるワインの苦味はきっと心地よく感じられることでしょう。
酸味(アシディティ/Acidité)
酸味はワインにとって最も重要な味であるといえます。
酸味は、甘味や苦味、タンニン、アルコールなどの非常に複雑な味わいや香りをまとめあげ、ワインというお酒の骨格となる味覚なのです。
例えば、酸味がなく甘味だけが強いと、べたべたした印象のおいしいわりにとても飲みづらいシロップのような液体になってしまいます。
赤ワインが多く含むタンニンなどのポリフェノールは酸が洗い流してくれなければきつすぎますし、白ワインに酸味がなかったらうすぼんやりとした味わいになるはずです。
貴腐ワインなどの糖度がものすごく高い果汁濃縮系ワインが、濃厚ながらもおいしく飲めるバランスを保っているのも、甘味だけでなく酸味も多く持っているからなのです。
ただしもちろん、他の味と同じように強ければ強いほどいいというわけではありません。
強すぎる酸味は舌や口内にびりびりと不快な刺激を与え、唾液を大量に出させます。
いくら香りが良くても、レモン果汁のような白ワインを好んで飲む人はいないでしょう。
そもそも、酸味は腐敗を察知するためのシグナルでもあるため、あまり酸っぱいと体が本能的に摂取を拒否しようとするはずです。
表現としては、
- 爽やかな
- 緊張感のない
- 攻撃的な
- のっぺりとした
- 柑橘類のような
- 南国系フルーツのような
- シャープな
- 丸みのある
- フレッシュな
- 落ち着いた
などがあげられます。
ワインの酸味は、未熟な果実か良く熟した果実か、寒い地方のものか暑い地方のものか、発酵後にマロラクティック発酵やシュル・リーなどの熟成を経ているかどうかなどで、系統が変わります。
一般的には、寒い地方で栽培され、まだ熟しきらない果実を使用し、発酵後に樽熟成などを行わずステンレスタンクで短期間落ち着かせただけのもののほうが、より刺激的な酸味を持つとされています。
旨味(グー/Goût)
旨味は発見されてからも長く日本独自の味覚とみなされてきました。
「五味」が海外でも一般に認められたのは20世紀末のことで、それまでは他の四味を味の構成要素としてきたのです。
そのため、ワインの味わいで「旨味」に言及することはほとんどなく、旨みを含むワインでも、塩味や苦味として表現されているようです。
ただ、日本人にとっては旨味は馴染みの深い味覚のため、注意深くテイスティングすれば見つけ出すのはそれ程難しくないでしょう。
特に石灰質を多く含む土地で造られたワインや、マロラクティック発酵を経たコクありの白ワインなどでは、顕著に感じられることもあります。
ほのかな塩味と共に感じる場合は、「ミネラル感」として表現されることも。
食事と共に飲んでいる場合は、一度水を含むなどして口の中をリセットすると、うまくキャッチできるかもしれません。
刺激によって生じる味覚
舌で感じる味覚は上記の通りですが、ヒトが物を味わう場合には舌だけでなく口内全体を使っていると言われています。
つまり味蕾がキャッチする刺激だけでなく、口の粘膜全体が感じる触覚も、味覚として処理されているのです。
渋み(アシタリジェンス/Astringence)
渋みは良く五味のひとつのように誤解されがちですが、これは厳密には味覚ではなく触覚のひとつである痛覚に当たります。
粘膜を収縮させる作用のある化学物質が口内に触れることで刺激が起こり、それが「渋い」という感覚として認識されるのです。
ワインに含まれる渋みの元としては、主にタンニンがあげられます。
そのため赤ワイン、特に果皮や種子が多く、果梗(かこう)も一部使用するようなタイプのワインで強く感じますが、白ワインでも樽熟成のものでは意外と強く出ることがあります。
表現としては、
- 収斂味のある
- 刺すような
- 厚みのある
- 調和した
などがあげられます。
あまり渋いものだと、もっとはっきり「不快な渋味」などと言われることも。
他の味覚に比べて許容できる範囲が狭く、その割にワインだと強めに出がちなため、生産者の腕が強く反映される味と言えるかも知れません。
アルコール感(Alcool)
アルコールそのものに味はありませんが、口に含んだときの刺激として味の一部になっています。
ワインのアルコール度数は一般的には10~15%程度。
フォーティファイドワインで蒸留酒として添加されるのを除いて、発酵工程で酵母の働きによって生み出されています。
本来はアルコール度数が同じなら刺激も同じになるはずなのですが、実際には甘味や酸味、タンニンなど他の目立つ味わいとのバランス、そして熟成具合によって感じ方が変わります。
基本的には、熟成期間が長くなるほど良く馴染み、過剰な刺激を受けづらくなるようです。
表現としては、
- ボリュームのある
- 薄い
- 刺激的な
- まろやかな
- 強い
- 弱い
などがあげられます。
また、アルコールはワインの「ボディ」にも深く関わっています。
舌触り(テクスチャー/Texture)
ワインのコメントでよく登場する触覚が、この「舌触り」です。
赤ワインの場合は渋味と同じようにタンニンの質や量に左右されることが多く、主に液体中に感じる粒子の状態として表現されます。
ほとんどのワインは瓶詰め前に清澄・濾過工程を経ているため、舌に触るほど大きな浮遊物が残っていることはありませんが、歯や舌などに影響を与える収斂味が粒子状の触感として感じられるようです。
また、甘味や酸味も舌触りに影響を与えます。
表現としては、
- 絹のような
- ざらつきを感じる
- 滑らかな
- 粗い
- 良く溶け込んだ
- 乾いた
などがあげられます。
ワインを口内全体によく行き渡らせるように含み、舌で転がすようにして味わうと、判断しやすいでしょう。
粘度(ヴィスコジーテ/Viscosité)
ワインにはいろいろな成分が溶け込んでおり、その濃淡によって粘度が変わります。
最初のうち、スティルワインだけでは分かりにくい場合は、果汁濃縮系ワインやフォーティファイドワインなどと比べてみると分かるようになるかもしれません。
糖やポリフェノールのように濃いほどとろみを感じるものもあれば、アルコールや酸のように濃いと粘度が低く感じるものもあります。
他の味わいと組み合わせてテイスティングすることで、そのワインの特性をより正確につかむことが出来るでしょう。
表現としては、
- とろみのある
- さらさらした
- たっぷりとした
- スマートな
- まとわりつくような
- 乾いた
などがあげられます。
口に流れ込むときや口内で転がすときの感触をしっかりとらえましょう。
味わいの変化
味わいを表現するもう一つの大きなポイントは、味わいの変化です。
例えば際立った酸味を感じたとしても、それが口に含んですぐなのか、飲み込んだ後なのかで印象は大きく変わってきます。
そのためテイスティングの際にも、どの時点でその味を感じたのかを表現する言葉を使用することになっています。
アタック(Attaque)
ワインを口に含んだ際に、最初の味わいを感じる速さやその強さを表します。
最初の味がはっきりと、勢い良く感じられるものを「アタックが強い」と表現したり、第一印象を「アタックは~で・・・」と説明したりします。
一般的には、アルコール類は熟成が進むほど口当たりが柔らかくまろやかになっていきますが、若くてもちょっとぼんやりしたワインや何十年熟成させても勢いを保っているワインなど例外も少なくありません。
持続性(ペルシスタンス/Persistance)
一つ一つの味を感じ取ってからそれが消えるまでの時間もチェック項目のひとつです。
例えばアタックで強い甘味や酸味を感じても、それがすぐにひいてしまうものと、いつまでも長く口内に残り続けるものでは、最終的な味わいはまったく異なるはずです。
ワインの場合は同じ系統の味覚でも、出所や元となる物質が違っていたりするため、持続性も大きく変わってくる場合が多いのです。
余韻(アリエールグー/Arrière-Goût)
ワインを飲み込んだあと、味わいが消えるまでどれくらいかかるか、最終的にどの味が残るかなどを示します。
次にあげる「コク」「キレ」にも関わってきますが、口からワインがなくなったあと、すぐさま味が消えてなくなるワインはほとんどありません。
最終的な味の印象はそのままワインの評価に直結しますし、そのワインをどれくらいのスピードで飲むか(飲めるか)にも関わってきます。
ワインの味を評価するうえで、非常に重要なポイントといえるでしょう。
コク、キレ(コール、トランシャン/Corps、Tranchant)
ワインに関わらずお酒の味わいの特徴として良く登場する「コク」と「キレ」。
どんな意味なのかよく分かっていない、という方も少なくないのではないでしょうか。
コクとは、味わいがどんどんと変化しつつ持続することです。
「コクがある」「コクが深い」というように使用されます。
味の種類が多いということはそれだけ味わい豊かであるということなので、コクがあるということは味の濃さや厚みがたっぷりしていることを表します。
逆に、キレとは味わいがすっと素早く消えることです。
「キレがある」「キレが良い」というように使用します。
キレは一般的に酸やアルコールの含有率が多いほど良くなる傾向があり、糖分やタンニンなどの比率が高いと悪くなります。
そのため、寒冷地方の辛口白ワインなどは、比較的キレの良いものが多いようです。
その他の味わいの表現
ワインの味の表現には、他ではあまり見ないものも登場することがあります。
果実味(フイー/Fruit)
ワインになる前の果汁のような、果物そのもののような新鮮さを感じる時に使用します。
甘味や酸味がはっきりと感じられ、アタックが強い、ひとつひとつの味がまとまらずにばらばらに感じられるなど、若々しい感覚を表現する言葉です。
ジューシーと表現されることもあります。
実際のところワインはどれも水分たっぷりなアルコール「飲料」ですが、渋味の強いワインなどは、その収斂味で口内が渇いたような感覚になるため、水分は多くてもジューシーな感じはしないようです。
そのため、カベルネ・ソーヴィニヨンのようなタンニンの強い長期間の熟成を要する品種を使用したものよりも、ピノ・ノワールのような品種を使用した、どちらかというと早期に飲み頃を迎えるワインのほうが果実味が強いとされています。
時間が経過して円熟するごとに果実味は失われていく傾向にありますが、十分ちからのあるワインを適切な環境で保管した場合には、何十年経っても驚くほどの果実味が残っていることがあります。
また、果実味の感じ方は味わいだけでなく香りの濃淡によっても左右されるようです。
凝縮感(コンサントレ/Concentre)
それぞれの味わいがぎゅっと詰まったように濃いことを指します。
単純に「濃いめの味わい」と表現されることもあります。
醸造手法はもちろん、原料となるブドウ果汁がしっかりと濃縮された良質なものであることが重要とされています。
複雑味(グーコンプレクス/Goût Complexe)
言葉通り、味わいの種類やその変化の仕方が複雑であることを指します。
「コク」に近いニュアンスですが、こちらはひとつひとつの味わいの厚みはあまりなく、繊細で集中力を要するような入り組んだ味わいのときによく使用されているようです。