トスカーナの地域データ 位置、人口、気候など

目次

トスカーナ州(Toscana)とは

 トスカーナ州はイタリア中部、イタリア半島の中央西側でやや北寄りの州です。
リグーリア州(Liguria)、エミリア・ロマーニャ州(Emilia Romagna)、マルケ州(Marche)、ウンブリア州(Umbria)、ラツィオ州(Lazio)と州境を接し、地中海に面します。
イタリア半島本土のほかに、周辺の小島の多くもこの州に属します。
州都のフィレンツェ(Firenze)をはじめとして、古い歴史を持つ多くの都市を有するイタリア有数の観光都市です。
ローマのすぐ近くに位置し、いくつもの有力なコムーネ(comune)が合わさってできたフィレンツェ共和国が統治した地域で、ルネサンス期に世界的な芸術家を何人も輩出するなど文化的な影響力も強い地域でした。
そのため、例えばフランスのAOC法制定よりもずっと前、1716年に当時のトスカーナ大公によって使用品種や生産地を制限する、ワイン法的な保護がなされた「ポミーノ(Pomino)」の例を見てもわかるように、ブドウ栽培やワインの醸造の品質面に対して基本的にあまり力を入れてこなかったイタリアにおいて、例外的に古くから高品質なワインを造る取り組みが行われてきました。
19世紀にイタリア王国に併合されたあとも、かつてのトスカーナ大公家が領有権を主張し続けるなど独立的な動きが強く、「スーパー・タスカン(Super Tuscan)」と呼ばれる高品質テーブルワインを生み出すなど、現在でも他の地域とは一風変わった州となっています。
土地のほとんどが山地か丘陵地という平地のほとんどない地域で、テロワールも変化に富み、個性豊かなワインが生み出されています。

トスカーナ州の歴史

 ローマのすぐ近くに位置する現在のトスカーナに当たる土地は、ローマ帝国が台頭してくる以前は他のイタリア北部の州と同じようにエトルリア人の支配区域でした。
ブドウは古くから栽培されていたようですが、ワイン造りが本格化するのはやはりローマ帝国領となったあと、紀元前5世紀頃からと考えられています。
ローマ帝国が滅亡したあとは、東ゴート王国やランゴバルド王国、東ローマ帝国、中フランク王国などの支配を経て、神聖ローマ帝国領となりました。
11世紀以降には、教皇領に近いこともあり貿易や金融などで次第に力をつけるコムーネが続出。
それらの吸収・合併などにより領土が統一されていき、16世紀には現在のトスカーナ州のほぼ全域をカバーするフレンツェ公国が成立します。

 中世には、当時のワインに関する知識の集積組織であったキリスト教の総本山とも言うべき教皇領が近く、ワイン造りに適した土地も多かったことから、いくつもの有名銘柄を持つ名醸地としてその名が知られるようになりました。
また、当時のローマ教皇はヨーロッパ中から教会税や十分の一税などを徴収できるという、強大な財政基盤を持っていたことから、金融業や芸術作品の製作などでも発展。
14世紀以降のルネサンス期には、ミケランジェロ、ラファエロ、レオナルド・ダ・ヴィンチなど多数の芸術家を輩出し、世界的にも著名な地域となっていきます。
有力な商人や芸術家、そのパトロンなどが集まる地域では当然ワインの品質に対する要求も高く、品質向上の動きも活発でした。
1716年には、当時のトスカーナ大公によって「ポミーノ(Pomino)」で生産されるワインに対する使用ブドウ品種や生産地を制限するワイン法的な保護がなされます。
また、イタリア王国の統一直前には、ベッティーノ・リカソリ男爵によって「キャンティ(Chianti)」に使用するブドウ品種とそのブレンドの割合が定められました。

 19世紀から20世紀にかけては、一時大量生産に寄ったワイン造りが行われていた時期もありましたが、第二次世界大戦後の「量より質」への転換によって、もともと優秀だった産地が次々復活していきます。
また、戦争中にフランスから取り寄せた苗木でボルドー風のワインを造っていたボルゲリ(Bolgheri)のワインが良質であることが分かり、一躍有名になりました。
これは「土着のブドウを使用したワイン造り」という当時のイタリアの常識からすると、時代に逆行するような動きともされていましたが、中世から大きな権力を持った独立国として繁栄し20世紀後半に至っても大公家が領有権を主張する自立心の強い地域だったこともあり、同様の方針によるワイン造りが拡大。
ワイン法の規定からははずれてしまうためテーブルワイン扱いでしたが、DOCやDOCGのワインにも負けないクオリティ持つということで「スーパー・タスカン」と呼ばれ、イタリアワイン界に大きなインパクトを与えました。
(現在では「ボルゲリ・サッシカイア(Bolgheri Sassicaia)」として単独でDOP認定を受けています)
生産量では上位勢にはかなわないものの、DOPワインが総生産量の60%以上を占める高品質なワイン産地として、現在も進化を続けています。

トスカーナ州のテロワール

 トスカーナ州は気候的にも地質的にも、多彩なテロワールを持つ地域です。
平均すると大陸性気候に属するため、夏冬の厳しい気候や収穫期の雨などに悩まされる地域もありますが、沿岸部では比較的穏やかな海洋性気候の影響を受けます。
そうした地域では乾燥した風と昼夜の寒暖差もあり、土着のブドウ品種はもちろん、カベルネ・ソーヴィニヨンやシャルドネなどのメジャーなヨーロッパ系品種にも適したテロワールとなっています。
1/3が山岳地、2/3が丘陵地というほとんど平野部のない地域で、緩急様々な斜面は水はけと日当たりを確保してくれるだけでなく、畑の地質を区域によって様々に変化させています。
粘土質、砂質、礫質、石灰質などバラエティ豊かな地層が、深さや濃淡を変えて広がる土壌は、フランスの主要な産地にも負けない適性を持っているといえるでしょう。