国別、地域別、畑別・・・ 地域によって変わるワインの価値
ワインは同じ原料を使用し、同じように造ったものでも、国や地域、場合によっては畑ごとに価格に大きな差が生じるお酒です。
同じ醸造酒のひとつである日本酒の場合、一般的なものであれば4合瓶の価格はハイエンドの商品でも1万円程度、意図的にプレミアをつけたものでさえ5万円を超えることはほとんどありませんが、これがワインとなると一本5万円ならむしろ安いほうに入るとさえ言えます。
一本あたりが数百円から数百万円までと幅広い価格を持つワインですが、この差はなぜできるのでしょうか。
ここでは特に、地理的な要因について考えてみたいと思います。
歴史的に価値があるとされてきた国のワイン
かつてワインの醸造技術やブドウの栽培手法が現代ほど洗練されていなかった時代、いまよりも品質の差は非常に大きく、高品質なワインはどこでも手に入るものではありませんでした。
そのため、天候や地質的な条件に恵まれ良質なブドウが摂れる産地や、長いワイン造りの歴史があり技術が蓄積されている村や町の重要度はいまよりずっと高かったのです。
そして、ほんの数世紀前までは高品質なワインはほぼ全て支配者階級たちのためのものだったため、そうした貴重なワインは一般市民が日常的に飲むお酒とは別次元の価格で取引されました。
つまり、長い間高価値なものとして扱われてきた歴史が、現在でもその土地の価値に影響を与えているのです。
一時期イギリス領だったためにイギリス貴族たちから愛されたボルドーのワインなどはその最も顕著な例の一つといえます。
テロワールが品質を決める
もちろん、歴史だけが要因となるわけではありません。
ワインには資産としての側面もありますが、やはり基本的には嗜好品です。
現在、いわゆる「新世界」を中心に積極的に人工的な手を加えるブドウ作りがおこなわれるようになってきていますが、基本的にブドウは育つ環境が最終的な果実の品質に非常に大きな影響を与える植物です。
平均気温や降水量などの大きなものはもちろん、風向きや数時間単位での日照時間、気温の移り変わり、植わっている土地の傾斜などのごく細かい条件も影響してくるため、極端な例では隣り合った同じ品種のブドウの樹から、まったく違う品質の果実が収穫できるケースさえあります。
そしてヨーロッパを中心とする「旧世界」の極力テロワールを尊重するブドウ産地では、その影響力は最終的なワインの品質まで決定付けるほど大きいものでした。
つまり、「良質なブドウ=ワインができる土地は既に決まっている」のが常識だったため、当然の結果としてどこで造られたワインなのかがそのまま価値の高低を決定することになったのです。
フランスのブルゴーニュ地方などでは、畑ごとにまで格付けが決まっていますが、テロワールを重視するワイン造りを行うのであればそれは当然のことといえます。
「原産地呼称制度」
そして現在ヨーロッパ諸国では、歴史的要因と地理的要因をもとに、公的機関が認定を与える「原産地呼称制度」が一般的になっています。
これは、地理的な要因から高品質なワインであると推測される名称を、無関係な(もしくは低品質な)ワインが使用することを禁止し、長い時間をかけて培われた信頼が毀損されるのを防止するためのもので、EU加盟国であれば国内法よりも優先される「規則」によって定められています。
ワインについて一定の名称を使用するのであれば、規則の中でそれに見合うと定められた産地、原料、製法などの基準をクリアせねばなりません。
この制度にはEUワイン法では3段階、国によってはさらに多くのランクがあり、上のランクに行くほど基準が細かく、厳しくなっていきます。
地域よりも狭い範囲になってくると、その土地で伝統的に使用されてきたブドウ品種なども指定され、発酵前のブドウの品質や状態、選択することのできる製法などにも注文が付きますので、この条件をクリアすることで自然とその名称から推測される特徴を持つワインに近いものになっていくのです。
ワイン産地、特にヨーロッパにおいて地域やそれを示す名称によって価値がかわるのは、単に形骸化した価値観によるものではなく、現代でもワインの実力を伴った実際的な理由からであるといえます。