シャンパーニュ(トラディッショナル)製法で作られたスパークリングワインの熟成方法 熟成方法と飲み頃その3
シャンパーニュ製法(トラディッショナル製法)は、定められた品種のブドウ果汁のブレンド、早期の瓶詰め、瓶内二次発酵などを特徴とする、スパークリングワインの製法の一種です。
非常に多くの労力と時間がかかり、ワイン法による規定も多いため、高級ワイン向けの手法となっています。
シャンパーニュ製法で造られるワインとしては、フランス、シャンパーニュ地方で造られる「シャンパン(シャンパーニュ)」はもちろん、フランスの他のいくつかの地域で造られている「クレマン」やスペインの「カヴァ」などが知られています。
いずれもきめの細かい泡立ちと複雑で繊細な風味が特徴となっていますが、それを生み出す鍵のひとつとなるのが、出荷前の瓶内熟成期間なのです。
一回目の熟成 原酒として保存されている間の熟成
シャンパーニュ製法では、熟成のタイミングは大きく分けて3回あります。
1回目は、アルコール発酵が終わったあと、調合(アサンブラージュ)を行うための原酒として保存されている期間です。
シャンパーニュ製法の大きな特徴のひとつに、収穫年の違う原酒を調合する、という工程があげられます。
本来収穫された年によってばらつきのでるブドウ果汁を、年を越えてブレンドすることで仕上がりの差をなくし、どの商品でも一定以上の品質を持ったワインにするための工夫です。
この手法に使用するため、アルコール発酵後すぐに調合工程に進むものとは別に、次の工程に進むまでに数ヶ月から数年保管しておくいわゆる「リザーブワイン」を取り分けておくのですが、この保管してある期間に熟成が進むのです。
現代では味わいや香りが変化しにくく、品質のコントロールが効きやすいステンレスタンクでの熟成が一般的で、あまり本格的な熟成変化は起こさないようですが、なかにはスティルワインなどのように樽を使用してコクや風味を移すケースもあります。
ただしその場合でも、この期間の熟成はあくまでイレギュラーであり、他の製品との差別化のためのアクセント程度に考えられているため、あまり大きすぎる変化が起こらないよう調整はしているようです。
二回目の熟成 滓と共に瓶内熟成
二回目は、瓶内二次発酵が終わったあとの熟成です。
シャンパーニュ製法にとっては、これが最も重要で品質を左右する熟成と言っても過言ではありません。
酵母と糖分を添加して瓶詰めされたワインは、密閉された空間で再度発酵し3.5~5気圧という高いガス圧を獲得しますが、同時に増殖して発酵を行い役割を終えたあとの酵母などが滓となって瓶の中へ沈んでいきます。
この滓に触れた状態で熟成させることによって、深いコクと複雑な香味がワインへと溶け出していくのです。
この作用を最大限に活用するため、熟成期間中はボトルを寝かせて側面を下にし、滓がたまる面積を広げることでワインとの接触面を増やします。
瓶内熟成が終了したら、最終的にこの滓も排出せねばならないため、本来であれば最初から瓶を逆さまにして口元に溜めておいたほうが効率的なのですが、ワインと滓の接触面が減ってしまうと味や香りに影響が出てしまうためそれはせず、熟成終了直前から数週間かけて瓶を倒立させていき、ゆっくり滓を移動させる動瓶(ルミュアージュ)という工程で対応します。
動瓶は現代ではほぼ機械化されましたが、かつては何千本とあるボトルを全て人の手で少しずつ動かしていくという非常に手間と時間のかかる作業で、シャンパーニュ製法で造られたワインの価格が平均して高価になりがちな一因ともなっていました。
しかし、それでもこうして定着していることが、いかにこの熟成がシャンパーニュ製法にとって重要かを物語っています。
この熟成期間は、発酵期間も含めると1年前後、長いものになると数年間続けられることもあります。
シャンパーニュやカヴァなど、AOCで規定されるものの場合は、最低熟成期間も厳格に定められています。
三つ目の熟成 出荷後の熟成
三回目の熟成は、出荷されたあと開栓されるまでの期間に進みます。
原料から厳選され丁寧に作られるシャンパーニュ製法のスパークリングワインは、他の高品質なワインと同様長期間の熟成が可能なポテンシャルを持っています。
滓を排出したあと、甘味を加えるために「門出のリキュール(リキュール・デスクペディシオン)」が添加されるため、その糖分がワインにしっかりと溶け込んで馴染むまで待つ方が良いとする意見も少なくありません。
最高級のものであれば数十年に渡って熟成を続けるシャンパーニュ製法のスパークリングワインにとって、この最後の熟成期間は全工程の中でももっとも長い時間をかけた成長期と言えるでしょう。
もちろん、熟成が進んで本来持っている才能を開花させるには、生産者の手を離れて店舗や一般消費者が保管する間、適切な環境に置かれることが大前提です。
直射日光や高温はもちろん、熟成が止まるほどの低温やコルクが乾いてしまう過乾燥状態、モーターなどの微振動があると、熟成に失敗する可能性が高まってしまいます。
人工的なものも含めた光の差さない暗所に横にして安置し、できれば定期的に状態を確認しましょう。
もちろん、ワイン専門店などで有料のセラーが利用できれば、それがもっとも理想的です。
長ければ人生の半分にも渡るような長期間のケアが必要となりますが、十分な注意と労力を払って熟成を見守ったシャンパーニュは、それに見合うだけの喜びを与えてくれるはずです。