開けるタイミングは意外と重要 タイプ別おいしい開栓タイミングの考え方
ワインは非常に酸化の影響を受けやすい液体です。
敢えて何十年もの期間高温熟成を重ねて安定しきったマディラワインのような例外も一部にはありますが、一般的には開栓して十分な酸素に触れると、数時間、もしくは数十分という単位でどんどん状態が変化していってしまいます。
そのため、コルクやスクリューキャップなどを用いてしっかりと密栓し、酸素との接触を極力避けた状態で流通しているのです。
ただし、この変化は別に悪いものだけではありません。
ワインの成分内容や製法によっては、飲み始める直前に開栓するよりも、からしばらく置いておいたほうが良いものもあるのです。
ここではタイプ別に、適切な開栓のタイミングについて見てみましょう。
開栓直後に飲んだほうが良いもの
特に調整をせずに飲む直前に開けた方が良い主なタイプは、「スパークリングワイン」「早飲み系のワイン」「十分な熟成期間を重ねてきたワイン」です。
スパークリングワイン
ご存知のように、スパークリングワインの最大の特徴である炭酸ガスは、未開封の状態だとボトル内の気圧によって押さえ込まれ液体内に溶け込んだままになっていますが、開栓して圧力が下がると気化してどんどん抜けていってしまいます。
高級なシャンパンもリーズナブルなスパークリングワインも、基本的に炭酸ガスを含んだ状態で飲む前提で味や香りを整えてあるため、これが抜けてしまうととたんにバランスを崩してしまいます。
飲む直前に開栓するのはもちろん、パーティなど大勢で短時間で飲んでしまう場合以外は注いだ後に再栓しておいたほうがいいでしょう。
スパークリングワイン用のコルクは、ガス圧で抜けてしまわないように端が広がっていて一度抜くと戻しにくいので、再栓用の(スパークリングワインにも対応した)ワインキーパーがあると便利です。
早飲み系のワイン
マセラシオン・カルボニック(炭酸ガス浸漬法)で造られた新酒ワインや、スクリューキャップで栓をされた色味の薄いワインなど、早飲み系のワインは基本的に酸化熟成を想定していません。
このタイプは酸素に触れていても口当たりがまろやかになったり複雑な香味が立ったりといった好ましい変化が起こらないだけでなく、酸化スピードを遅らせるポリフェノールの含有量が少ないため一気に老化が進んでしまいます。
早い時期に成熟するということは、すぐにピークを過ぎてしまうということ。
できれば開栓したその日のうちに飲んでしまうのが理想といえます。
それが難しくとも、しっかりと栓を戻して冷蔵庫で保管、次の日には飲みきったほうがいいでしょう。
十分な期間熟成を重ねてきたワイン
何十年も理想的な環境で瓶熟成させてきた高級なワインも、実は開栓後にあまり時間をおかないほうがいいタイプのひとつです。
長年熟成させてきたワインは、時間をかけてゆっくりと熟成を進めなければ獲得できない、とても繊細で絶妙なバランスを持っています。
しかし、酸化はワインの熟成の針を急激に進めていってしまうので、せっかく気が遠くなるほどの時間をかけて円熟させてきた深い味わいや複雑な香りのバランスが崩れ、一気に台無しになってしまう恐れがあるのです。
また、開栓時点ですでにピークを迎えているワインの場合、酸化によってもっとも良いタイミングを逃してしまう可能性もあります。
そのボトルが飲み頃を迎えているのかまだなのかは基本的に栓を抜いてみるまで分かりませんが、もし多少早くても微調整はグラスでのスワリングなどで十分できますので、年代物のボトルをあまり早くに開栓するのは避けたほうがいいでしょう。
開栓後数十分から数時間置いたほうがいいもの
できれば飲み始める予定よりも前に開栓しておきたいのは、主に「長期熟成するべきワインのうちまだ若いワイン」「還元臭が発生しているワイン」です。
長期熟成するべきワインのうちまだ若いワイン
高級なワイン、特にフランスのボルドー地方などで造られるワインは、もとから数十年間熟成させることを前提として造られているものが少なくありません。
このようなワインを想定よりかなり早い段階で開栓すると、重合していない大量のタンニンなどのポリフェノールによる強すぎる渋味、角の取れていない不快な酸味、弱すぎてのっぺりとした香りなど、明らかにピークを迎えていないことが分かるまずさにがっかりすることになります。
通常、それが長期熟成によって真価を発揮するワインであると知りながら、時期が来る前に開栓してしまうことは稀です。
何十年も成長できるポテンシャルを持つワインは基本的に高価で、生産者や銘柄も有名なものであることが多く、なんとなくラベルで選ぶ、というようなカジュアルなラインナップに紛れ込んでいることはないからです。
しかし、長期間大事に育てる価値があるかチェックする、もしくはすでに所有しているコレクション(自分で飲むためであれば、同一のワインを何本も購入するのが一般的)の中からまだ若干早いボトルをあえて開けてみるなど、例外的なシチュエーションもないわけではありません。
その場合は、飲み始める予定の数時間前に開栓し、空気に触れさせることで熟成を進めておくことでピークに近づけることができます。
まだかなり若い、もしくはポテンシャルが高いワインであれば、前日に開けるなどして空気に馴染む時間を長く取ったり、キャラフェに移して接触面を増やすのも良いでしょう。
長い年月をかけて熟成させるのに比べるとどうしても荒く、ふくらみに欠ける熟成にはなりますが、固くこわばったような口当たりを和らげ、ピーク時に近い味や香りを楽しむことができます。
還元臭が発生しているワイン
還元臭とは、主に酸素の少ない状態で発生する、硫化水素などイオウ化合物に由来する悪臭のことです。
「酸素の足りない状態で発生する」のは間違いありませんが、その原因となる物質の多くはブドウ栽培時に使用されるボルドー液などから吸収されるか、発酵工程中に発生するとされています。
発酵力の弱い天然酵母に頼ったりボルドー液以外の農薬を使用しないビオ(自然農法)ワインによく見られたことから「ビオ臭」と呼ばれることもありますが、もちろんビオ以外のワインでも発生します。
温泉や腐敗した卵の匂いに例えられる強い悪臭で、ひどいものになると香りを損なうどころか飲むのもためらわれるほど。
しかし、この悪臭も開栓後しばらく放置することでかなり改善することが可能です。
ボトルのままよりもキャラフェなどに移してよくスワリングし、空気と触れさせることで反応を早めたほうがいいでしょう。
通常、1~2時間でも改善が見られ、半日程で気にならないくらいにまで臭いが消えるようです。
事前に察知することがむつかしいため対症療法にはなりますが、ボトルごと諦めるよりは相当ましであるのではないでしょうか。
ただし、還元臭以外の悪臭(ブショネなど)には効果がなく、還元臭の原因となる物質によっては完全に消えるわけではありません。
試してみてどれだけ時間をおいてもよくならない場合は、諦めたほうがいいかもしれません。