種からではなく接木(つぎき)で育てる! ワイン用ブドウの植え付け
劣性遺伝とフィロキセラ ブドウの樹が接ぎ木で育てられる理由
食用のブドウを食べていると、(種を作らせないジベレリン処理などを行っていない限り)果粒一粒ずつのなかに小さな種が一粒か二粒ずつ入っています。
ブドウの栽培というと、その種を畑にまいていくようなイメージがないでしょうか。
確かに、食べ終わったあとのブドウの種を土に埋めておけば、適切な環境であれば芽を出すことも育てることもできます。
ただし多くの交雑種の場合、親となったブドウと同じ性質にはならない可能性が大きく、耐病性や耐候性などの面でなんらかの問題を持っている可能性もあります。
ブドウの場合、枝の一部をそのまま地面に刺しておくことで断面から根を出させる「挿し木」や、別の品種のブドウに枝を接ぐ「接ぎ木」でも簡単に育成することができます。
この場合はもととなる枝の性質をそのまま引き継ぐことができるため、代替わりしても同じ性質を持つブドウを作り続けたいワイン生産者にとって、わざわざリスクを負って種から育てるよりもメリットの大きい方式と言えます。
またもうひとつ重要な点として、害虫に対する耐性の問題があります。
ヨーロッパのブドウは1860年代に、フィロキセラ(ネアブラムシ)という害虫による甚大な被害を被りました。
フィロキセラはブドウの樹の根に寄生し、わずか数週間で樹を枯死させてしまうという恐ろしい虫です。
アメリカから持ち込まれたブドウの苗について入り込んだこの虫は、畑から畑へとどんどん増殖しながら侵攻を進め、被害にあった土地のブドウはほぼ全滅の状態まで追い込まれてしまいました。
ヨーロッパ中のブドウとワインを壊滅させるかと思われた大災害でしたが、研究の結果アメリカ系のブドウの樹にこの害虫に対する耐性があることが分かり、耐性のある品種の台木(根と少しの幹の部分)にヨーロッパ系品種の枝を接ぎ木することで、なんとか被害を食い止めることに成功したのです。
ただ、被害が出なくなったといっても、フィロキセラがいなくなったわけではありません。
そのため、いまでもヨーロッパ系品種のブドウは、基本的にアメリカ系品種の台木に接ぎ木した上で植え付けられているのです。
簡単なようで難しい「接ぎ木」 ブドウの樹の植え付け
前述の通り、ブドウの樹の植え付け作業はまず台木となるブドウを育てる所から始まります。
台木に使用されるのは、フィロキセラに耐性のあるアメリカ系品種のブドウで、耐水性や土壌の性質などに合わせて種類を選びます。
台木は記号と数字で名が付いていて、種類は何十種類もありますが、基本的には北米に自生していた「リパリア」「ルペストリス」「ベルランディエリ」のいずれかから派生した品種です。
これもできるだけ性質を変化させないように、基本的には挿し木で苗を作ります。
台木にする品種の枝を切り1~2年地面に刺しておくと、しっかりとした根が張るので掘り起こして縦に分割。
そして斜めに切ったり合致するように凸凹をつけた上で、収穫したい品種の枝と接合し、テープやロウで接合部を覆います。
あとはそのまま通常の苗と同じように植えるだけで、根はフィロキセラ耐性のある品種の、幹から上は接合した枝と同じ品種の性質のブドウになるのです。
ただし、この方法では台木を作り始めてから実際に栽培を始められるまで1~2年かかってしまうことになります。
計画的に植え替えを進めていく上ではあまり問題ないかもしれませんが、急に枯死してしまった樹の穴を埋めたり計画外の拡充があった場合などには対応し切れません。
そこで、近年では「接ぎ木した上で挿し木にする」という方式がとられることが多くなってきています。
どういうことかと言うと、台木にしたい品種のブドウと収穫したい品種のブドウの枝を最初に接合してしまい、そのまま台木側を埋めて根を出させるのです。
接合がすみやかに進むことが前提なので、継ぎ目の形や温度管理などいくつかのテクニックが必要ですが、成功すると最初の年からすぐに栽培を始めることができます。
台木によって根を張らせた苗木は、収穫が可能な状態まで成長するのにかかる時間が短く、耐候性や果実の品質の安定性の面でも優れているため、現在ではブドウ樹を植えつける際のスタンダードになっています。