個人的に保管しておいたワインに資産としての価値はある? 資産としてのワインその4

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ワインの資産としての価値を支える、需給バランスの歪み

 ワインが資産として活用できる理由は、飲食物としては飛びぬけて高い保存性や有名生産地などのブランド力が認知されていること、古くから高級嗜好品として取引されてきた堅実な市場があることなど様々ですが、要因のひとつに「年を追うごとに需要と供給のバランスが崩れていく」という特殊な性質があります。
ワインは世界中で毎年造られていますが、過去のワインがこれから新しく生産されて市場に供給されることはありません。
ある銘柄について「このヴィンテージは非常に良い」という評価が広がると、飲んでみたいという人は増えていきますが、それに合わせて供給を増やすことはできないのです。
それどころか、飲まれた分や保管に失敗した分などが年々減っていくため、需要は増加するのに対して残量は少なくなっていきます。
結果、価格は年々上昇することになり、逆に下落することはほとんどありません。
この性質の興味深い点は、なにか働きかけや幸運がなくても、時間が経過するだけで自然と価値が上がっていく、という点にあります。

ワインの取引は信用第一

 ワインの価値が時の経過と共に必ず上がる、ということであれば、いま店頭に並んでいる高級ワインを確保しておけば、それはいずれ利益を生む資産になるということです。
実際、ワインの選定から購入、保管までを代行してくれる専門の業者も、ヨーロッパ、特にフランスでは珍しいものではありません。
では、手っ取り早く自分で購入してきて自宅に保存しておき、数年~数十年後、価格が上がってから売る、という方法で資産を運用することは可能でしょうか。

 結論から言うと、それはかなり難しいでしょう。
最大の問題は、おそらく買いたがる人がいない、という点です。
ワインは適切に保管することで、何十年も熟成を続けることができるお酒ですが、同時に不適切な環境では劣化しやすい酒でもあります。
そして、開栓してみなければ品質の確認が難しいため、保管されていた環境が適切であったか、そしてそれを証明できるかが重要になります。
プロが最善を尽くしても場合によってはダメになってしまうのに、素人がどんな環境で保管していたかわからないものを、大金を払ってまで買いたいと思う人はほとんどいないでしょう。
ましてや、貴重なワインを欲しがるような上流階級の顧客を持つバイヤーが、なんの保証もない個人から買い付ける、というのはまずありえません。

 もちろん、世界中探してもほとんど現存していないほど古いワインや珍しいものなら話は違ってきます。
100年を超えるような古い有名酒であれば、状態はどうあれ好奇心から味をみてみたいと考える人もいるでしょうし、中にはトロフィーのようにただ所有していたいだけの人もいるかもしれません。
価格がそこまで高く設定されていなければ、ギャンブル的な要素があったとしても、チャレンジしてみようという気になる可能性もあります。
ただ、当然ながら「資産運用」というレベルの話ではなくなってきます。

 ビジネスとしてワインを保管するのであれば、どうしても客観的に信用に値すると評価される根拠が必要です。
では、いったいどんな根拠があればよいのでしょうか。

ワイン管理者として信用を得る方法

 ワインを取り扱う上での最低限の準備として、十分な知識と技術を身につけることがあげられます。
ワインの管理は、ただワインセラーに入れて置いておけばいいというような簡単なものではありません。
ワインとは一体どんなお酒で、どうやって造られているのか。
生産地、製造法、原料の品種にはどのようなものがあるのか。
そして、どんな環境でうまく熟成し、どんな環境で劣化するのか。
ワイン全体に対する知識はもちろん、実践することで技術を磨き、かつそれを他者から評価できる形で示せなければならないのです。
そのためのもっとも確実な方法は、ワインを正しく扱う飲食店に勤務し、ソムリエの資格を取ることでしょう。
ソムリエは、資格取得時点でワインを扱う職についていて、さらに一定以上の実務経験がなければ取れない資格です。
ソムリエであること自体が、ワインについてただ詳しいだけでなく、実践的な知識と経験を持っていることのなによりの証明になるのです。
そして、勤続年数が長くなる程、飲んだことのあるワインや扱ったことのあるワインも増えるため、より信用を得やすくなります。
ちなみに、技術や感覚を競うコンテストなどもありますが、それだけではあまり意味はありません。
やはり継続してワインに関する仕事に携わっている、ということのほうが、より大きな信頼につながるようです。

 もうひとつのポイントは、設備です。
光を避け、湿度と温度をしっかり管理でき、振動などの影響を受けない設備がなければ、どんな良いワインも長く品質を保つことはできません。
ワインは冷蔵保存すると成長を止めてしまいかねないので、適度に温度が高くなければいけならず、熟成を重ねるには一定の温度ではなく適温の範囲で穏やかに変化する必要もあります。
コルクが乾燥すると収縮して酸素が入ってしまい劣化の元となるので、あまりに乾燥している場所は問題があります。
ただし、カビの恐れがあるほど湿度が高くてはいけません。
直射日光はもちろん、年代もののワインなら蛍光灯の光もできるだけ避けたいところ。
振動は、時として熟成を助けることもありますが、自分で飲むのでなく後に売ることを考えると、不確定要素になるため、可能な限り排除すべきと言えます。
こうした条件を満たして、かつそれが客観的に評価できるようにしようと思うと、部屋にラックを置いて、というような簡易な設備ではまったく不十分であることが分かるでしょう。
海外の実績のあるワインセラーを利用できるのでなければ、最低でも業務用の高価な機械式のセラーが必要です。
「海外」としたのは、ワインを扱うことに関する歴史的な信用はもちろん、ワインを何十年も保管するのに、地震などの災害の多い日本はあまり向いていないと言わざるを得ないからです。

 このように、リターンが非常に遠い未来になるうえ、経費も労力も莫大にかかるワイン現物の運用は、個人が簡単に行えるものではありません。
会社としてではなく個人としてやるなら、ほぼ趣味のつもりでなければ割に合わないといえます。
とはいえ、これは「資産運用なら」のお話です。
人に販売するのではなく、個人的に飲むためであれば(最低限の知識や設備が必要なのは同じとしても)ここまで厳密である必要はありません。
そしてその個人的なコレクションに、時として将来価格が高騰するボトルが紛れ込むこともあります。
価格の上がりきった高価なワインをその都度購入して飲むのに比べて、まだ手頃なうちに手元に確保し、成長を楽しみにしながら熟成させるというのは、ワイン好きにとってある意味で資産運用よりもずっと健全な資産の増やし方といえるかもしれません。