ローヌ地方の地域データ 位置、歴史、気候など

目次

ローヌ地方とは

 ローヌ地方はフランスの南東部、ブルゴーニュ地方とプロヴァンス地方の間に位置し、ローヌ川に沿って広がる細長い地域です。
南北の長さは約200kmもあり、AOCワインの栽培面積は約130,900ha。
ワインの年間生産量は約62万キロリットルでフランス全体の約1/8という、ボルドー地方についてフランス第二位のAOCワイン主要生産地となっています。
南部の土地らしくブドウの栽培自体はローマ帝国時代から行われていましたが、現在のような高品質なワインが造られるようになったのは、法王庁がアヴィニョンに移されたいわゆる「アヴィニョン捕囚」以降のこととされています。
ローヌ地方はテロワールなどの差から、ローヌ川両岸にブルゴーニュ地方のように細長く産地が連なる北部の「セプタントリオナル(Septentrional)」地区と、それよりはやや東西に広がる形の「メリディオナル(Meridional)」地区の2つの地区に大別されます。
気候や土壌などは大きく異なりますが、どちらも成分が凝縮したどっしりとしたワインを生み出す産地として有名。
他の主要産地に負けない優秀な地区がいくつも属していますが、海外への輸出率が30%程度と低いせいか、日本ではいまひとつ知名度が高くありません。
品質が非常に高いにもかかわらず、競争率が低いためお手頃な価格で手に入る可能性が高いという、覚えておく価値の高い地域だといえるでしょう。

ローヌ地方のワインの歴史

 現在フランスが位置するガリア地方で、最初にブドウ栽培、そしてワイン造りが始められたのは、プロヴァンス地方でのことだったとされています。
その素晴らしい飲み物の造り方は、そのすぐ北に位置するローヌ地方にも当然すぐに広がっていきました。
まだブドウの栽培技術がさほど高くない西暦前でも問題なくワインを造ることができたローヌ地方は、プロヴァンス地方、ラングドック・ルシヨン地方と並び、フランスでも最も古いワインの歴史を持っている地域です。
ローヌ川を遡ってワインが運ばれていたことが、出土するアンフォラの多さからも証明されています。
しかし、というより、だからこそ、品質の向上やテロワールの追及に労力が割かれることはあまりなく、南部の他の地域と同じように平凡なワイン造りだけが続けられることになります。

 流れが変わるのは14世紀。
周辺の王族や貴族よりも大きな権力を持つようになったキリスト教とフランス王族の対立の果てに、教皇座がローヌ地方へのアヴィニョンへと移される「アヴィニョン捕囚」という事件がきっかけでした。
1309年から1377年まで、4代の教皇とその周辺期間が滞在したこの期間に、ローヌ地方のブドウ栽培とワイン醸造は急激な進歩を余儀なくされます。
特にワインを好んだクレメンス5世、クレメンス6世の時代にはその居住地や別荘地の近くのブドウ畑も開発され、現代に至るまで名醸地として知られる畑も少なくありません。
ローマ教皇という権力の中枢に結びついた産地だったこともあり、この後ボルドーやブルゴーニュのワインが台頭してくるまでの間、フランスの王族や貴族たちに愛される高級ワインの生産地として発展していきました。

 しかし、1860年代に南部地区から輸入された苗木が、状況を一変させてしまいます。
ローヌ川の主要な港町のひとつであるロクモールを経由した苗木の根に、フィロキセラがついたものが混ざっていたのです。
ほんの20年ほどでヨーロッパ中のブドウ畑を巻き込む大災害となったフィロキセラですが、その発端となったローヌ地方の被害はフランス内でも特にひどく、ブドウ畑は名声の大小に関わらずほとんど再起不能なレベルの壊滅的被害をこうむることになります。
この災害の爪あとは他の地域の畑がなんとか回復したあとも残り続け、主要な地区や畑がようやく力を取り戻しはじめたのは第二次世界大戦が終わってしばらくたった1950年代のことでした。
ただ、幸いなことにその後の生産者の人々の努力の甲斐あって、現在では最盛期に近い品質を取り戻しつつあるようです。

ローヌ地方のテロワール

 南北に長いローヌ地方は、テロワールも地区によって大きな違いがあります。
内陸寄りの北部地区は変化の緩やかな大陸性気候で、適度な寒暖差と雨が少なく乾燥気味の気候が特徴。
対して南部地区は地中海式の海洋性気候で、暑くて乾燥した夏が力強いブドウを育みます。
土壌は花崗岩や片岩などが主体ですが、砂利質や石灰質などが目立つ地域もあり、特に南部地区で変化に富んだ地層が広がっています。
そのなかでも特に特徴的なのが、南部のローヌ川左岸、「シャトー・ヌフ・デュ・パプ(Châteaunuef du Pape)」などに代表される、大きめの石が転がる地域です。
こぶし大からサッカーボール大という、砂利のイメージよりかなり大きめな石が土壌の表面を覆っているのですが、これが日中の強い日差しを吸収し日が落ちた後も保温の効果を発揮するため、ブドウの熟成が進んで力強い味わいの果汁が作り出されるのです。
北部地区では、ローヌ川の流れによって生み出された砂利質の水はけの良い丘の斜面に畑が作られており、長い日照を効率的に利用することでやはりしっかりと熟成したブドウを生産しています。