貴腐ワイン、アイスワイン 果汁濃縮系ワインとは
より濃厚で高貴な甘みを目指して 果汁濃縮系ワインとは
何百年という昔、甘い食べ物や飲み物は、いまよりもずっと貴重なものでした。
ワインの世界においても、ブドウ果汁が持つ糖分や味わいの濃度をあげて、より濃厚で甘口なワインを造る手法がいくつもあります。
現在では、浸透膜を使用した方法や常温減圧法などが安全確実な方式として採用されているケースもありますが、もっとずっと昔の醸造家たちは、機械ではなく自然の力を借りた驚くべき方法で目的を達していました。
ここではその代表的なものをいくつか見てみましょう。
貴腐ワイン
収穫前の白ブドウの果皮に、ボトリティス・シネレア菌というカビの一種が繁殖することで、自然に果汁濃縮状態となった「貴腐葡萄」から造られるワインです。
ボトリティス・シネレア自体は世界中に分布するありふれた菌で、通常は灰色カビ病という植物病の原因となる病害菌です。
しかし、収穫前の白ブドウがこの菌に感染し、適度な温度変化と短い期間での乾湿を繰り返すなど環境条件が整うと、果皮のロウ分が溶けて果汁から水分だけが蒸発し、濃縮状態になります。
また、果汁自体に腐敗は起こらないものの、カビ菌から影響を受けることで、果汁が独特の風味を獲得します。
この果汁から造られるワインを「貴腐ワイン」といい、黄金色に輝く水色と極甘口で複雑な味と高貴な香りを持つワインになります。
フランスのボルドー地方、ソーテルヌ&バルサック地区で造られる「ソーテルヌ」、ドイツの肩書き付き上質ワインの最高位である「トロッケンベーヘンアウスレーゼ」、世界最古の貴腐ワインであるハンガリー、トカイ自治区の「トカイワイン」が、いわゆる「世界三大貴腐ワイン」として知られています。
前述の通り菌自体はどこにでも分布しているため、気候条件が揃えば他の国や地域で造ることも可能であり、1970年代からは日本においても生産されるようになりました。
しかし一歩間違えば単に腐敗してしまう危険性や、凝縮された果汁からは極少量のワインしか得られないことなどから生産のハードルは依然として高く、いまでも貴重なワインとしての地位を保っています。
アイスワイン
果汁の一部が凍ることで濃縮された収穫前のブドウを使用して造られる甘口ワインです。
樹上で自然に凍ったものを使用せねばならず、収穫時の気温もマイナス8度以下と定められているため、出来不出来以前に生産の可不可もコントロールできない貴重なワインとして知られています。
糖分などが含まれる液体は、氷点下の環境に置かれるとまず水分だけが凍り、まだ凍っていない部分に水分以外の成分が凝縮されていきます。
これを「凍結濃縮」と呼びますが、アイスワインはこの作用を利用して濃縮果汁をあつめるのです。
糖分以外の成分も濃縮されているため、単に甘いだけでなく酸味や華やかな香りも濃厚なワインに仕上がります。
ちなみに、現在では収穫後のブドウを人工的に凍らせて凍結濃縮を起こす「クリオ・エクストラクション」という技術もありますが、これで造ったワインに「アイスワイン」という名称を使うことは許されていません。
麦わらワイン(ヴァン・ド・パイユ)
早摘みしたブドウをわらの上に広げ、天日で乾燥させて果汁を濃縮する方法。
「ストローワイン」とも呼ばれています。
フランスのジュラ・サヴォア地方、イタリアのチンクエ・テッレ地区などが有名です。
現在では必ずしもわらの上に並べて乾燥させるのではなく、棚に並べたりぶら下げたりしている産地もあるようです。